■ほぼオールキャスト総出演
■ぐだぐだなうえ、非常識に長いギャグ話
SSL設定のお話です
キャラは基本、崩壊寸前
■生徒は同い年設定のクラスメイトだったりします(先生組はまんま教師設定)
■薫と千鶴ちゃんはわけあってお休みしてます


昔々、あるところにミジンコくらい男前な少年がおりました。
彼は優しい両親に囲まれ、とても幸せな日々を送っていました。
ところがそんな幸せも長くは続きませんでした。
彼の母親が流行病にかかり、突然亡くなってしまったのです。
彼が悲しみに耽っていたある日のこと。
父親は新しい母親を迎えたい、と彼に話をしました。
彼は首を縦に振り、新しい母親がやってくる日を心待ちにしていました。
しかし、その継母との出会いは、少年にとっては地獄のような日々の
始まりだったのです――


「始まりはこんなナレーションを入れるんだけど、どう?」
教壇の上に立つのは土方先生ではなく、どういうわけか沖田総司、彼であった。
左手をズボンのポケットに突っ込み、だるそうに立っては教室内をぐるりと見回している。
壇上の中心に置かれた教卓には、総司自身が書き上げた脚本が1ページ、開かれた状態で置かれてある。

ここは昼下がりの2年い組の教室。
只今、3週間後に迫った学園祭のクラス演劇、そのシナリオの発表会が行われていた。
シナリオ作成者は壇上に立つ総司。
この男、数日前にどういう風の吹き回しか自分がシナリオを書きたい!と立候補。
まぁ、誰もやりたがらないもんだからそのまま総司が脚本担当となったわけだが……

担任の土方は不安そうに総司の作ったシナリオを聞いている。
何にでも消極的、やる気のないダメ人間の塊のようなヤツが、どう転べばこうも積極的になれるものだろう。
教育者として、こういう考え方はよくないのだろうが、絶対、何かある……
そう勘繰ってしまう自分がいた。
教室の前方、窓際のパイプイスにどっかりと腰を降ろす土方は総司を見、そして生徒達を見つめている。

「なぁ、総司。肝心のタイトルは?」
はいはーいと手を挙げ、平助が立ち上がる。

「タイトル?」

「あぁ。やっぱさ、タイトルからぐいぐいっとお客さん呼ばなきゃよ、ダメだろ」

「そうだね。うん……呼べるといいね」
天井に視線を移し、少し間をとり、平助に向き直る総司。

「なんだよ?そんな変なタイトルなのかよ」

「うん、まぁ」

「おーい、総司。もったいぶらずにさっさと言えよ」
教室の後ろに立つ原田先生からは非難の声。

「やれやれ。左之先生はせっかちだよね、全く……」
仕方ないなぁとため息をついてから、総司はチョークを持ち、真後ろの黒板に書き始める。
タイトルだろうか。

「ん?何々……ト、シ、デ、レ、ラ……?」
声を出して読むのは原田の隣に立つ永倉先生。

「おいおい、トシって……」
原田が関係大アリげな土方に視線を向ける。

「主人公は土方先生にお願いしまーす。さ、皆拍手!」
ちらほらとまばらなぱちぱち音。
大半の生徒は拍手してよいものか迷っているらしい。土方先生の表情を見て。

「嫌だなぁ、土方先生。そんな眉間に皺いーっぱい寄せちゃって。主役やれるんですから、もっと喜ばないと」

「誰がやるか、お前の作ったシナリオの主役なんて」

土方の悪い予感は見事的中したわけで。

「学園長せんせーい、土方先生が僕を苛めます!」
総司はちょうど2年い組の前を通りかかった近藤に告げ口助けを求める。というかこれも計算済みだった。

「む。トシ、皆が楽しむ学園祭に教師のお前がそんなことでどうする」
と、総司にはベタ甘な近藤学園長先生。

「……悪かったな、近藤さん……と総司」

「最後のとこよく聞こえませーん」
ニヤリと黒い笑みを浮かべる総司。

「すまなかったな、そーじ」

「へぇ。じゃあ、本当にすまないと思ってるなら主役やってくれますよね、土方先生?」

「あ?」

「トシ!」

「……わかったよ、主役でもなんでもやりゃあいいんだろうが」
ここは近藤学園長先生の顔を立てるったことで、主役を引き受けた土方。
全く納得いかないが、ひとまず続きを聞くことにした。

「あー、だからミジンコ、ね……」
平助が頷き、ボソリと呟いた。
だが、その声も土方の耳には届いていなかった。


「土方くん、このビーカー100個すぐに洗ってもらえるかしら」
とノリノリな様子で土方を扱き使うのは、今日も眼鏡をキラリと光らせる継母の山南敬助。
どこぞの科学者なのか、朝から晩まで、不気味な赤い色をした液体研究に没頭していた。

「こ、ここ、ま、まだ汚れてるじゃねぇか!」
と、オドオド口調で土方を苛めるのは継母の連れ子、藤堂平助。
本編では最年少幹部だが、今回は土方の義理の兄ということにしていただきたい。

「すみません土方副長。ここに石田散薬をありったけ詰めてください!」
非礼をわびつつ、玄米袋30kgの口をしかと広げる斎藤一。
彼が土方の義理の兄、その2だったりする。

てか
苛めてんの、コレ……?

この大量の石田散薬、彼は何に使うつもりなのだろう。
後日判明したのだが、彼はこれをビタミン剤のごとく日々愛飲しているらしい。
どんな効果が期待できるのかは全くもって不明だが。

とまぁ、こんな感じで父親がいない間は常に苛められっぱなしの土方歳三。
炊事洗濯等の家事全般から石田散薬作り、実験器具の洗浄に至るまでとにかく日々、扱き使われていた。


「それじゃあ行ってくるよ」
幕府の長州征伐がきまり、歳三の父、近藤勇も出征することが決まりました。
山南ママに平助、斎藤、そして少し離れて立つ土方も近藤パパの武運を祈って見送りました。

それからしばらくたったある日……


「総司?」

「なんですか、近藤さん」

「俺の出番は、その……あれだけなのか……」

「はい、そのつもりですが」

「そうか……」
ガクッと肩を落とす近藤。
学園長先生もクラス演劇に出てもらいますから、と事前に総司から報告を受けていたが当の近藤はもっといっぱい活躍するヤツを想像していたらしい。
台詞が「それじゃあ行ってくるよ」って会社に出勤する時に家を出るサラリーマンじゃない?
もっと皆が目を輝かせてくれるようなカッコイイ役が良かった、な……なんて思ったりもした。

「近藤さんさえ嫌でなければ、甲冑姿で、馬に乗った晴れ晴れしい出陣シーンを予定しています」
そう言って総司は1冊のカタログを近藤に差し出した。表紙には甲冑レンタル・井上屋と、金色の文字でババーンと書かれてあった。

「こ、これは……!」

「お好きな甲冑を選んでください。費用は土方先生の給与から」

「は?」

「なんと!総司!そしてトシよ!ありがとう!ありがとう!」
近藤は目をキラキラ輝かせながらそのカタログをじっくり眺めている。
その様子を見ると、土方はもはや何も言えなかった。

「あ。僕が個人的にオススメしたいのが徳川家や……」

「その辺でストップ!ストォォォップ!」
永倉のキレのあるツッコミがすかさず入った。


で。
総司の妄想シナリオに戻りまして。

ある日。
土方が庭を掃いていると、ポストの中に一通の手紙が入っていました。
それにはあて先も書かれておらず、ただ差出人であろう人の家紋が印字されておりました。
首をかしげながらもその封筒を開くと、それはお城からの招待状だったのです。
そこには明日の天下一舞踏会に是非とも参加してほしいと書かれてありました。
土方も行く気まんまんでしたが、それを意地悪な継母たちが許すはずもありませんでした。

「いや、俺は別に行きたくねえんだが……」

「土方先生。空気読んでください」

途中、主演・土方のささやかな抵抗もあったが、とりあえず次の日。
二人の兄たちは朝早くから入念にめかしこんでいた。
どうやらその天下一舞踏会で、姫の婚約者を決めるらしい。
そうなるとやっぱり姫の目に留まるよう、着飾るわけで。
平助は頭に”愛”とデカデカと乗っかる兜を深々と被り、甲冑を身にまとっていた。
どうやって踊るつもりなのだろう、土方は不思議に思ったが、別に平助がどうなろうと知ったことではないから黙っていた。
斎藤はというと、上下真っ黒な燕尾服を召していた。
胸元には白い蝶ネクタイ。
まぁ、ごく普通の正装だった。
山南ママはというと、なぜか白衣姿だった。
そして怪しげなジェラルミンケースを傍らに用意している。

「山南さん、それは……?」

「あなたが知る必要はないですよ、フフッ」
土方の問いかけに、怪しげな笑みで返す山南ママ。

「あぁ、土方くん……、今日中にあの実験室の書類、全て焼却処分しておいてください」

「え?じゃあ、俺の天下一舞踏会への参加は……!」

「お黙りなさい!身の程をわきまえるべきですよ。あなたが城へ入れるはずもないでしょう、そんな汚い格好で!」
土方の薄汚れた着物を指差し、吐き捨てるように山南ママは言い放つ。

「うわ。山南さん、はまりすぎて怖いくらいだよな、一くん……」

「あぁ。間違いなく助演男優賞はあの人だろう」

山南ママの名演技に連れ子の兄たちは感嘆の声を漏らした。


「チッ、好き勝手言いやがって……」
山南ママと兄二人がいなくなった広い室内で、土方は一人煙草を吹かしていた。

「書類捨てとけって、すごい量じゃねえか」
グリグリと煙草の火を灰皿に押し付け、立ち上がろうとしたそのとき、ものすごい破壊音と衝撃が土方の足元を揺らした。

「な、なんだ……?」
その音の発信元へ急ぐ。
そこには黒いローブに、先の曲がったとんがり帽を被った男がヘラッと笑って手を振っていた。
男の周りには玄関扉の破片やら壊された壁の残骸やらが転がっている。

「総司、なんのつもりだ」

「嫌だなぁ、土方さん。ここの台詞は”誰だてめえは”ですよ」

「もういいだろうが。人のうちまで壊しやがって」

「じゃあ土方さんはお姫様役に変更で」

「くそっ……!ほら、誰だてめえは」

「魔法使い、ソージ」

「そのまんまじゃねーか!」

「もしかすると豊玉宗匠かもしれませんよ?だから、ほら。ここはちゃんと名乗らないと」

「……。」

「あれ?土方さんはお城で開かれる天下一舞踏会へは参加しないんですか」

土方はかくかくしかじか、舞踏会へと参加できない理由を説明した。

「それは可哀想な土方さん。ではあなたをお城へと連れて行ってあげましょう」

「どうやるってんだ?」

「僕にまかせてください。ほら、そこのミカンとリンゴをここに用意して……」
うろたえる土方に、総司は優しげな眼差しでテーブルの上の果物を指差した。右手に持っていたステッキ(先に☆付き)で。
土方はその指示通り、総司にミカンとリンゴを差し出した。

さぁ、ここからは魔法使いの腕の見せ所……

「じゃあこれ、皮剥いてください。あ。リンゴはウサギさんで」

とはいかなかった。

「僕、お腹空いてるんで」

「てめぇの腹事情なんて知るか!ここは魔法のステッキ振って、ドレスとか馬車とかいろいろ出すんじゃねえのか!」

「嫌だなぁ、土方さん。僕は便利屋じゃないんですよ。魔法使いなんです」

「だから、その魔法使えって……」

「あぁ、ここに入るときに使っちゃいましたから。僕、一度使うと次は3時間後に使用可能です」

しれっとものすごいことを言っちゃった総司。
じゃあどうやって天下一舞踏会に行けというんだろう。

「心配しなくても、ちゃんと衣装と乗り物は用意してますから、大丈夫ですよ。ほら、早くミカンとリンゴの皮むき、お願いします」


総司はご馳走様でした、と手を合わせ、フォークを置いた。
それから持っていた紙袋を土方に差し出す。

「はい、これが衣装です」

「とっとと出してくれ……」

天下一舞踏会が始まってからもう小一時間程が経過していた。
こんな魔法使いソージとのやりとりで結局は参加できない、なんてことになるんじゃないかと土方は気が気でなかった。
この馬鹿げたやりとりでトシデレラが終わってしまうのは正直、痛い。
今まで何だったの?って感じだし。

「じゃあ着替えてくる……」
土方は自室に入り、ソージの持ってきた衣装に袖を通した。
通したんだけど……

「なぁ、総司」

「なんですか」

「山南さんたちに気づかれないためとはいえ、逆に目立ってねえか、これ」

そう不審がる土方の頭には山岡頭巾。
時代劇なんかで、悪の親玉(どこぞの悪代官)が、正体を隠すために被ってるアレだ。


アレ

「だって変装するんですから当然ですよ」

「そうだが……」

「きっとバレませんって」
まぁ、目しか見えませんから、そう総司が言う。
助太刀に来たはずの魔法使いがこの調子である。
土方はますます先行き不安になる。

「じゃあ、馬車を頼む」

「馬車ではないですけど……」

そう断ってから総司は天井に呼びかけた。

「忍者、山崎くーん」と。

その呼びかけに小さく答える声がしたかと思うと、土方の目の前に黒い忍び装束に身を包んだ忍者が現れた。
これがさっき召還した、忍者・山崎くんらしい。

「お呼びですか、副長」

「なんかよくわかんねえが……ま、宜しく頼む」

「御意」

「あ。ちなみに山崎くんは土方家に代々仕える忍者です」

と、総司が説明を始めたとたん

「山崎流忍法・畳返し!」

そう叫ぶ忍者・山崎くんの姿。
その掛け声とともに、跳ね上がる畳。
その畳に一瞬にして二つ、穴をあけ、そこに縄を通す山崎。

「どうぞこちらへ」

登場から数分も経たないうちに準備が整ったらしい。
魔法使い・ソージとは違って、こいつは案外使える忍びなのかもしれない。
土方はそう思った。

そう思ったんだけど……

ズルズルズルズルズル

引っ張られてる畳の上には土方がいた。
読者の皆様には、筋トレのため、タイヤを引いてる野球部の図を思い描いていただきたい。
そのタイヤが畳に変わって、その上に土方が胡坐をかいて座っていて。まぁ、重石みたいなもんか。それを引っ張る野球部少年が忍者・山崎、という状況だった。
周りの景色の進むスピードは、土方がフツーに歩いたときよりもはるかに遅い。

「山崎。降りてもいいか」

「な、何をおっしゃいます!私には土方副長を無事に城まで送り届ける義務がございます!」

しかし、この調子だと天下一舞踏会が終わった頃に城に到着しそうだった。
山崎の主君を思う気持ちは有難いがそれだと元も子もない。

「いや、今、一日一万歩運動というのをやっているんだが、今日はまだ一万歩に到達していない。わかってくれ、山崎……」

「そうですか、そういうことでしたら……」

嘘も方便。
土方の気持ちが伝わったのかおせっかいな忍者・山崎もこれには納得してくれたらしい。

「それでは先に城へと向かい、土方副長をお待ちしております!」
の声と同時に、山崎の姿は見えなくっていた。

何しに来たんだよ……?


土方がしばらく歩いていると、駕篭屋に出会った。
かき手は原田と永倉だった。

「すまないが、城まで頼む」

「あいよ」

自分で歩くよりは早いだろうと踏んで、早速土方は駕篭へと乗り込んだ。
乗り込んだのだが……

エイホッ、エイホッ

威勢のいい掛け声はすれど、どうも前に進んでいる気配がない。
周りの風景は一向に流れようとはしない。
と、そこへ……
けたたましいエンジン音よろしく、マフラーやらホイールやら改造しまくりのバリバリなアメ車がやってきた。
その車はどういうわけか土方の乗った駕篭を追い抜くことなく隣を走る。というよりは止まるって感じで。

「……?」

土方が訝しげに(というかそもそも車アリな設定に驚愕だが)運転席に目をやるとそこには見慣れた顔があった。
2人の視線がぶつかる。

「総司……」

「あれ、土方さん。まだこんなところにいたんですか?」
運転席から顔をのぞかせたのは、職業詐称の気のある、魔法使い・ソージであった。

車持ってるなら、はなからそれに乗せたらいいだろうが……!
土方は顔を引くつかせる。

「この調子だと僕の方が先にお城に着いちゃいますね」

「は?」

「言ってませんでしたっけ?僕も招待されてるんですよ、天下一舞踏会」

この言葉に土方は呆然。

「あ。そうだ、土方さん。その駕篭屋さん、三歩進んで二歩下がりますから」

「ハハ……そりゃあすげぇ駕籠屋だなぁ……」

そう土方がぼやくと、かき手の一人、永倉が振り返って言った。
目じりをキランと光らせて。

「土方さん……、人生なんて、こんなモンだぜ?」

ブチッ
土方の中で何かがキレた。

「人生悟る前に駕籠屋が何たるかを知れえぇ!!!」

土方渾身の右ストレート炸裂。
リングの上に沈みゆく一人の男。

新八よ、永遠に……
アーメン


「もうメチャクチャじゃねえか!」
土方の怒号。

「だって、こういう方が面白いですよ」

まぁ、事実数名のクラスメイトはこのストーリーを笑って聞いていた。

「面白いけどさ、魔法使いソージって、ホントに魔法使い?」
平助がうーんと首を傾げ、考え込む。

「なんか俺の役、微妙じゃね……」

「あぁ?出番少なくていいじゃねぇか。台詞も少ないしよ」
呆然と立ち尽くす永倉にの肩に手をやり、特に思うこともないといった様子の原田。

「私はなかなかによく出来ていると思いますよ」
そう口を開くのは助演男優賞候補筆頭の山南敬助。

「山南さんまで……」
土方はがっくりと肩を落とす。
山南さんはあんな役やりたがらないと思ってたのに。
当てが外れた。

「しかし、沖田くん……」

「何ですか?」

「あそこのシーンはもっと陰湿な……」
土方から少し離れたところでは不穏な空気を漂わせた総司と山南の脚本修正会議。

「もうあれくらいでいいだろうが!」

土方の言葉が二人に届いたことを願いたい。

「ちょっとぉ、私の役はないのかしらん」
そこへ独特な世界観をまとってやってきたのは英語教師・伊東甲子太郎先生だった。

「伊東先生の出番はもうすぐですよ」
総司がケロリと答える。

「あら。それは楽しみね……。じゃあ、そろそろ次のシーン、いいかしら?」

えぇ構いません、と総司が頷く。

「じゃあ、よーい、スタァーッツ!!」

カン!と伊東は手に持っていたカチンコを鳴らす。
どこから持ってきたの?とかはあまり考えないでいただきたい。


魔法使い・ソージの車に乗って城の門をくぐる総司に土方、そして駕篭かきの二人。

「なんでてめえらも一緒なんだ?」
土方の素朴な疑問。

「なんでって、俺らも呼ばれてるから。なぁ?」
原田の言葉にそうそうと頷く永倉。
土方の隣を歩くその二人は、ビシッとスーツを召していた。
着替えはどこかで済ませたことにしよう。
スーツ姿の二人はまぁまぁ様になっていた。

「ほう。これはまた、見事だな……」
天下一舞踏会会場へと足を踏み入れた土方が感嘆の声をあげる。
城の中には豪華な食事にデザート、そして様々なドリンクが並べられていた。
そしてステージ右端には、城おかかえの楽団が先ほどから素敵な音色を奏でている。
その音に合わせて、ステージ上では着飾った男女が楽しげに踊っていた。
その中央に甲冑姿の兄を発見。
兄は黒髪の、とても可愛らしい少女と手を繋いで踊っていた。
甲冑を着てるもんだからうまく動けないのか、はたまた踊り慣れてないのか動きがおかしい。
その様子を目にした周りの人間も土方同様、薄ら笑いを浮かべている。
そしてもう一人の兄、斎藤を探すと端っこの方で、何人かを前に熱心に説いていた。
あまり口数の多くないアイツが珍しいもんだと眺めていると、斎藤の横にはのぼりが立っていた。
そののぼりには”石田散薬”とデカデカと書かれてある。
足元には30kg用玄米袋。
中身は容易に想像がついた。
そして山南ママはというと、恐らく国の重鎮であろう人物たちと真っ暗な奥の間へと消えていくところだった。
持参していたジェラルミンケースを手にして。
見なかったことにしよう、そう思って土方はドリンクを手に、テラスへと出た。
兄や継母があの様子。恐らく、自分の姿に気づくはずもない、そう思って頭巾を外した。
幸い、周りに人気もなかった。

「やっとお顔、拝見できました」

「っ……!」
横には、先ほど平助兄と踊っていたあの少女の顔があった。
ニコと微笑んで土方を見上げている。

「私、こういう雰囲気が苦手で……」
少女は吐き出すように本心を告げる。
彼女の表情には一切元気がない。

「俺もだ……」

「おんなじ、ですね」
小さく笑う少女。

「あぁ、そうみたい、だな……。俺は土方。お前は?」

「私はちづ……」

少女が自身の名前を告げようとしたそのとき。

「探したぞ!!!我が嫁よ!」

突然、背後上空から思わぬ敵襲。
説明は不要かと思うが、まぁ、あえていうと風間千景であった。
上下白の紋付羽織袴姿で、どこにどう繋がっているかは不明の、ド派手なゴンドラに乗って降りてくる。
一昔前の結婚式を彷彿とさせるようで、なんだか懐かしい。

「な、なんだ……、こいつぁ」

モクモクと焚かれるスモーク。
変な装飾の施されたゴンドラ。
そしてそれを照らす微妙な照明。
土方は唖然と立ち尽くす。

「おい、土方とやら……。お前は誰の許しを得て、我が嫁と軽々しく話をしている!」

決まった!とばかりのドヤ顔でゴンドラから降りた風間は、上から目線で土方を怒鳴りつける。

「……!お前、こいつの嫁さんだったのか」
今は若者のデキ婚なんてのも多いし……、そうか、と土方は一人納得。

「ち、違います!この人の勝手な妄想です!この人、ストーカーなんです!!!」
風間に掴まれた腕を必死に振り払おうとする千鶴。

「ストーカー!?」

「おい、ストーカーとは何だ?」
風間が一瞬キョトンとし、側に控えてあった天霧に尋ねる。

「自分が一方的に関心を抱いた相手にしつこくつきまとう人物。待ち伏せ・尾行・手紙や、昼夜をかまわないでファックス・メール・電話などの行為を執拗に繰り返す、とあります」
天霧が手にしていたアイ●ォンを手にし、淡々と読み上げる。

「フン、そうか……」

「今の風間様の行為。あきらかにそれにあてはまるかと」

「おかしなことを言う。天霧、千鶴は俺の嫁なのだから、まったく問題ないだろう」

「実によく出来た思考回路ですね……」
冷たくあしらう執事・天霧。
なんかカッコイイ。

「おい、変態ストーカー野郎!とっととこいつからその薄汚ぇ手、離しやがれ」

「こいつではない、千鶴だ。そしてそいつは嫁だ、俺のな!
そして俺はストーカーなぞという安い存在ではない!風間だ!」

「口で言ってもわかんねえってことは……」

「あぁ、いいだろう。腰のモノを抜け!」

「話が早ぇじゃねぇか」

刀を抜く音。
一触即発の空気。
とそこへ平然と割って入る一人の少年。

「風間さん、探しましたよ」

「薫か……。今取り込み中だ」

「あちらで父上がお待ちです、そして千鶴?勝手にウロウロしないでもらえるか」
わざとらしく大きなため息をつき、今度はその少年が千鶴の腕を掴む。
そして土方を一瞥し、そのまま千鶴を引っ張ってスタスタ歩き出す。
千鶴は振り向き、土方にちょこんと頭を下げ、薫、と呼ばれる少年に続く。

「フン、興が削がれたわ……。まぁいい。いずれ、お前とは決着を着けよう」
首を洗って待ってろ、 そう言い残し、風間も、薫、千鶴たちに続いて人ごみへと消えていった。
天霧も土方に一礼し、足早にそこを発つ。

なんだ、ありゃあ……

土方は残されたゴンドラ一式を見て、首をゆっくりと左右に降った。
「ここに集まるヤツはどうかしてる」
そう呟いたとき、強烈なドラの音が鳴り響いた。
と同時に、先ほどまで着飾った男女が楽しげに踊っていたステージが真っ二つに割れ、下から別の舞台が迫り上がってきている。
正方形のブロックで出来たあの舞台、某作品の天下一ぶどう会のステージそのものであった。
そしてそこに現れた一人の男。

「それではこれより、千鶴ちゃんの婚約者を決める、天下一ぶどう会(仮)予選を始めるわよっ」
スーツ姿にサングラス、手にはマイクの、これまたノリノリの伊東先生だった。

「舞踏、なんて招待状には書いてたけど、あれはコレを狙っての誤植。やっぱり千鶴ちゃんにふさわしいのは強い男、よね」

語尾にうざいハートマークが見えた。

「参加・不参加は自由。だけど優勝者には、この千鶴ちゃんを差し上げます」

千鶴……?

ぶどう会のステージには先ほど言葉を交わした、あの少女が立っていた。
俯いていて表情までは見えないが、泣いているのか肩を震わせている。
無理もない、こんなカタチで自分の一生を添い遂げる相手を決められるとは。
そこから少し距離を置いて、先ほど一戦を交えようとした風間に、薫と呼ばれていた少年の姿もあった。

「我こそは千鶴ちゃんを幸せにできる!というそこの兵!エントリー待ってるわよん。あぁ、ち・な・み・に。風間家のご子息・千景くんに、千鶴の双子の兄・薫も参戦するから。二人は強いわよ?」
そう言って伊東は不気味に微笑んだ。

風間……
土方も噂には聞いたことがあった、公爵家の一人息子、風間千景。
とにかく腕の立つ男だと。頭ン中があんなに沸いてたとは知らなかったが。
そして、薫……
剣の強さは不明だが、妹を溺愛しすぎる痛い兄だとは聞いていた。
その妹のためなら何をしでかすかわからない危険な男、だと。
キレるとこういうヤツの方が何をしでかすかわからないから恐ろしい。

「まぁ、どっちにしろ、俺には関係ねえ、か」

そう呟き、土方は城を後にした。
背後の、千鶴の様子が少し気にかかったが……


「この人でなし!!」

「土方さん、あんまりじゃねえか!」

「年端も行かぬ女の子を泣かすとは……武士の風上にもおけんヤツだ!!」
平助、永倉、近藤から、次々に非難の声を浴びせかけられる土方。

「あれは総司の作った台本!俺は悪かねえだろうが!!」
ホント、割の合わない主人公役を押し付けられたモノである。
姫様とのラブロマンスもないに等しいし。

「でも土方さん……。あれはないですよ?」

「総司!お前の妄想に、なんで俺にケチつけんだよ」

「だって土方さんですよ?鬼ですよ?鬼なんて悪い奴しかいないって、昔から相場が決まってるじゃないですか」

「泣いた赤鬼って昔話もあるだろうが!」
いがみ合う総司に土方。
あんたらいくつですか。

「えぇい、合点がいかぬ!!!」
握りこぶしを作り、勢い良く立ち上がるは白い学ランの眩しい、風間生徒会長。

「何がです?」
土方とは一時休戦し、妙なテンションの風間を見て総司が首を傾げる。
クラスメイトもそんな風間に注目する。

「何故、俺がストーカーなどという低俗物呼ばわりされねばならぬ!!!」

「いや、当たってるってそれ」
風間会長の隣に座る不知火がしれっと答える。
周りの席からも声は発せずとも、チラホラ頷く者が見受けられる。

「な、なんだと!」

「千鶴殿本人からの許可も得ず、勝手に嫁、嫁、と公言しておりますと、訴えられますよ。そのうち」
こっちの世界でもとにかく天霧はクールだった。

「フン、嫌よ嫌よも好きのうちだ」

「ハッ、めでたいな、あんたはよ」

「それが取り得だ」
バンと胸を張る風間。
この男、めでたいの意味をわかっているのだろうか。

「ま、どーでもいいけど。なぁ、俺の出番はねぇのか、沖田?」

「ありますけど?」

「じゃ、続き頼むわ」
面倒くせぇことはゴメンだとばかりに手を振って、不知火は続きを所望する。
そんな中、土方だけが憂鬱そうに窓の外を眺めていた。


家に帰った土方。
真っ先に目に飛び込んできたのは真っ赤な炎だった。
家が、どういうわけかメラメラと燃えている。

「な、なんでだよ!……あ」

土方はアメ車の中での総司とのやり取りを思い出す。
確か、書類は全部燃やしときましたから、って言ってたよな。
で、その書類がどれかはわかんなかったですけど、まぁ、問題ないです、とか言ってたよな、あいつ。

で、全部燃やしたってわけか……
意外と冷静に状況を把握する自分がいた。

そして住むところのなくなった土方は、適当に小さな小屋を立て、この地に一人で住むことに決める。
父親が帰ってきたときに、帰る場所を作ってやっておきたかった。
案の定、家をなくしてしまった(正確には総司に放火されたのが原因だが)父親に、特に興味もなくなったのか、継母たちが戻ってくることはなかった。
風の噂で聞いたところによると、なんでも研究の成果が認められたとかで、先日行った城内に研究所兼、住む場所を設けてもらったらしい。
そして二人の兄もそこにいるらしかった。

というわけで、今日も土方は一人小屋作りにせっせと励んでいた。
そこへ、とある客がやってきた。

「なぁ、このライター、お前の?」
振り向くと、見知らぬ音が立っていた。
男の手には土方家の家紋”右三つ巴”の装飾入りライター。
確かに土方の物である。
先日城に上がった日に失くしたらしく、以来、どこにいったのかずっと探していた。
ついに見つけることはできなかったため、諦めて別のライターを使っていたのだが……

「あぁ、俺のだ」

「やっと見つけたぜ」
ニヤリと笑うは名を不知火といった。
肩にラジカセを担ぎ、ディスコ音楽を大音量で流し、特攻服風な奇抜なファッションに身を包んでいる。

「誰だ、てめえは?」

「あぁ、こーいうもん」
男の差し出す名刺には風間家第二執事・不知火と書かれてあった。

これが執事……?
土方は疑いの眼差しを不知火へと向ける。

「お久しぶりです」
と、また一人、土方の家を訪ねる者があった。
先日、城内で出会った天霧、と呼ばれていた、あの執事である。

「何の用だ?」

「用件のみをお伝えします。天下一ぶどう会(仮)へ参加されてください」

「は?」

「風間様があなた様をお待ちしております」

「ふん、あいつか……」
確かに風間とはまだ決着が着いていなかった。

「わかった」
土方は受け取ったライターを大切に胸にしまうと、愛刀・兼定を手に、城へと向かった。
その心境は、悪をバッサバッサと成敗する、時代劇の主人公になったかのようであった。


「おーい!なんで竹の子族!!!」
不知火が不満いっぱいに叫んでいる。

「俺の甲冑なんて、超マシじゃん……」
そんな不知火を横目に、ほっと胸を撫で下ろす平助。
口にせずとも出演者の皆が同じことを考えたはずだ。

「いいザマだな」
鼻で笑って風間が言う。

「あんたはストーカーだろうが」
ここでも内紛勃発。

「なぁ、総司?」

「何、平助」

「最後はさ、土方さんが天下一ぶどう会で優勝して千鶴と結婚ってこと?」

「さぁどうだろうね。続き、気になる?」

「気になるってか、シンデレラがベースならそういうことだろ」

「じゃ、最後のシーン見てみよっか」
そう言って、総司は意味深な笑みを浮かべた。


土方はトーナメント表の前に立っていた。
すでに予選は終了しており、これから本選スタートという状況であった。
その表には、風間、薫の名はもちろん、忍者・山崎に原田、永倉、兄平助と斎藤の名前もあった。
しかし一番驚いたのは、魔法使いソージの名前も表示されていることだった。

「なんであいつがここにいやがる?」
土方は疑問に思った。
通常のシンデレラの話だと、シンデレラをヘルプした魔法使いの出番はそれっきりのはずだ。
もしかすると、ここでも俺を助けるってことか?
いや、総司に限ってそれはねえだろうし……
うーむ。
土方は、一人、ソージの存在について考えてみた。
だが納得のいく答えが出るはずなく……

第一回戦の開始時刻となった。

一回戦はソージvs薫。
ソージ、薫、二人の実力を知るためにも土方は二人の戦いをしかと観戦することとした。

「なんでお前に、僕の大事な大事な妹をやらないといけないわけ?」

「理由なんていらないでしょ、おにーさん。僕が千鶴ちゃんをお嫁さんにしたいだけ」

「おにーさんとか言うな!気持ち悪いっ!!」

「じゃあ、お・義・兄・様でどう?」

「僕の前から1秒以内に消えてくれる?」

ぶどう会のリングの上では壮絶な舌戦が繰り広げられていた。

何だ、この不毛な戦いは……
観る価値もねぇ、そう思い、土方が控え室に下がろうとしたそのとき。

「僕、魔法使いだから、死の呪文で千鶴ちゃん以外は皆、死んでもらうね(=´▽`=)ノ」

それが、土方が耳にしたこの世の最期の言葉だった……

悪者を皆やっつけた魔法使いソージは、千鶴姫をお嫁にもらい、末永く幸せに暮らしましたとさ。
おしまい。