■みんな、千鶴ちゃん大好きです!なギャグ話
■攻略キャラ+永倉、山南、山崎、島田、天霧、不知火が登場します
■忍者・山崎くんが頑張ってたりします!
キャラ崩壊してたりしますので苦手な方はご注意願います
■横文字話してる人も一部、いらっしゃいます
■史実とは大いに掛け離れたすとーりぃになっております


「……ご苦労だった」
そう労いの言葉をかけられた男は、無言のまま、ただ軽く一礼した。

草木も眠る丑三つ時。新選組のとある屯所の一室。
人目を忍ぶようにして、新選組副長・土方歳三は監察方の山崎烝から”ある”報告を受けていた。

「……で、アイツは動くと思うか」
土方が問う。
「恐らくは……」
「そう、か……」
山崎の言葉に土方は俯き、何やら思案し始める。話しの流れから察するに”アイツ”に関することだろう。
そんな土方を、山崎はひどく落ち着いた様子で眺めていた。
だが、落ち着いた、というよりは冷めた視線で、といった方が正しいかもしれない。
「山崎……」
顔を上げ、山崎の目を見、おもむろに土方が口を開く。
「はい」
「お前に頼みがある。俺に力を貸し――」
「お断りします」
「……!」
山崎の、間髪入れずの拒絶に土方は目を見張った。
いつも副長、副長、副長!の彼が、どうして今回は協力しないのか、土方には合点がいかない。
が、そんな副長を余所に、山崎は淡々と告げる。
「そういう事柄に関しては、例え局長であっても俺は一切協力するつもりはありません……」
軽く頭を下げ、立ち上がる山崎。そんな彼に険しい顔で土方は訊ねる。「それは千鶴だから、なのか」と。
「……それは副長命令であってもお答えできません」
山崎は無表情のままそう返すと、静かに部屋を後にした。
「まさか、アイツも……?」
土方を照らす蝋燭の炎が、不気味に揺れていた。


「なぁ、知ってるか」
「あぁ、”かすていら”とかって菓子のアレだろ?」

井戸の周りには、朝の身支度をする平隊士がたくさん集まっていた。
普段は腕の立つ隊士の話しなどで盛り上がることが多い彼らだが、今日は違っていた。皆の目の色の輝きも。

「盛り上がってるとこわりぃんだが、そろそろ井戸使わせてもらえるか?」
「は、原田隊長!」
「な、なんだよ、そんな驚くこたないだろうが……。で、何の話してたんだ?そんなに楽しい話なら、俺も混ぜてくれよ?」
そう声をかけられた平隊士は目を丸くして言う。
「原田隊長はご存知ないのですか?最近巷で流行ってる”かすていら”の話……」
「かす、ていら?」
「はい!あの南蛮菓子の”かすていら”ですよ」
「……あぁ、あれか……」
あまり甘い菓子を食べない原田には、”かすていら”と名前を聞いてもピンとこなかったらしい。
平隊士の言葉に少し間を置いて、あぁ、と首を縦に振る。
「で、それがなんだってんだ?」
「うわっ!左之さん、おっくれってるー」
「遅れすぎでこりゃ手の施しようもねぇなぁ」
菓子がどうしたのかと不思議がる原田の顔を、小馬鹿にするように平助と永倉の二人が覗き込む。
「……う、な、なんだよ、平助。それに新八、お前まで……」
「ふふんっ、オレたちはもう、”かすていら”、手に入れてるぜっ!」と、グッと親指を立てる平助。
「あたぼうよっ!」ちょっと癇に障るようなべらんめぇ口調は永倉。
二人は原田の目の前で顔をつき合わせニヤニヤと笑った。
その様子を見、カチンと来るは、島原では土方と並ぶ程女性人気の高い原田左之助。
「さっきから”かすていら”かすていら”って一体なんなんだよ、お前らはっ!」
「うをっ、そんな怒るこたねぇだろーが!」
「そ、そうだぜ!左之さんっ、お、落ち着けって」
「オレは焦らされんのが大っ嫌いなんだよ、話すんならとっとと話してくれ」
「お、おーし!無二の親友、左之のためだ。耳の穴かっぽじってよーく聞けよ?」
「……あいよ」

永倉は大げさだろ、ってなくらい得意げな顔をしてから、ポンと自分の胸を叩いた。
それが合図というわけではないが、彼の周りを原田、平助、そして大勢の平隊士がぐるりと取り囲む。
陣形が出来上がったところで、永倉はわざとらしく咳払いをし、今、巷で話題沸騰の”かすていら”さくせすすとーりーを話し始めるのであった。


場所は変わって土方の私室。
そこには黒ずくめの男ばりに今日も全身真っ黒けな斎藤一が、朝イチで副長からのお呼び出しを受けていた。
斎藤は正座し、本日の任務を聞いていた……が、いつもとは様子が少し違っている。

「というわけだ……斎藤、協力を頼――」
「お断りします、副長」
「っ……!」
お前も、なのか……
斎藤の反応に、土方は、忠義に厚い飼い犬に(餌を食べている途中でちょっかいを出したわけでもないのに)理由も判らぬまま突然噛みつかれたような、そんな気持ちを抱いた。
そして某ボクシング漫画の矢吹さんに負けないくらい、ガクリとうな垂れる。
「他用がないのであれば失礼します」そう言って立ち上がった斎藤に、土方は山崎と同様の質問をぶつけた。「それは千鶴だから、なのか……」と。
「……それに答える義務はないと思いますが」
斎藤はそう返答後一礼し、足早に部屋を後にした。
「まさか、アイツも……?」土方は愕然とし、またもそう溢すのであった。


そしてその日のお昼を過ぎた頃……

「雪村くん……今、いいだろうか」
「はい、構いません」

千鶴は医学書を読んでいる最中だった。
少しでも新選組の皆さんのために役に立ちたい、自分の持っている医学知識をさらに高めたい。そう思って先日、良順からいただいたものだった。きれいな簪を栞代わりにし、それを閉じる。

「失礼する」
千鶴の部屋を訪れたのは監察方の山崎烝だった。
忍び装束ではなく、黄緑色の着物……つまり平常時の格好で、手にはたらいと手ぬぐいを持っていた。

「今日あたり、構わないだろうか?」
千鶴は山崎の手にする道具を見、笑って小さく頷いた。
「はい、今日は巡察にご一緒する予定はありませんので、お願いします」
「そうか。じゃあたの――」
言いかけて山崎は、ある物を目にし、言葉を継ぐのをやめてしまう。
そんな彼の視線の先にあったのは、先ほど、千鶴が栞代わりに挟んだあの簪だった。
「す、すみません……あんなもの持ってたらだめ、ですよね」
「……あ、いや、こちらこそ部屋の中を物色するような真似をして、その、すまない……。それにそういう意味ではないんだ」山崎は慌てて首を振った。
「で、でも、すぐ仕舞いますからっ!」千鶴が振り向き、本へと手を伸ばそうとしたその時……
「……ままで、いい……」小さな声だった。
「いや、そのままで構わない……」
そう言って、山崎は千鶴のか細い手首を掴むと、そのまま自分の方へと引き寄せる。
結果、バランスを崩した千鶴はそのまま彼の胸へと顔を埋めることに……
山崎の足元に手にしていた、たらいがくるりと数度回転し、転がった。

「あ、あの、山崎さん……?」
「あ……すっ、すまないっ!」彼は慌てて手を離した。
「い、今のは……君が転びそうだったので、咄嗟に……」
「私抜けてますから、そう見えてしまったんですね。はぁ、もっとしっかりしなきゃ……。本当にすみません……」
彼から離れ、千鶴は申し訳なさげにちょこんと頭を下げた。
気のせいか少し頬が赤い。山崎も同様だった。
「……じゃ、じゃあ行くか」
「は、はいっ!」

若い二人の門出を、澄みきった青空までもが祝福しているかのような穏やかなある日の昼下がり――
んなわけない。

「なんだよ、ありゃあ……」ペッと唾を吐き出すような仕草をするのは永倉だった。
「山崎くんは違うって信じてたのにっ……!」何をだ?とツッコミたくなるような不満を漏らすは平助。
「あれのど・こ・が・転びそうに見えたんだよ?」冷めた視線を送るのは原田。

三人は先ほどの、どこか青春のかほりのする壱ページを、某・家政婦のごとく三方(今しがた千鶴らが出て行った箇所を除く)から覗き見ていたのであった。手には”かすていら”を持って。

「くそっ!山崎の野郎、オレの千鶴ちゃんになんてことをっ!」ぐっと拳を握りしめ悔しがる永倉。
それに対し、うんうんと頷く残り二名ではあったが、”オレの”の部分がひっかかったらしい。
眉をしかめ「オレの……?」と、原田、平助両者同時に疑問を口にする。
「う、うをっ!なっ、なんだ、お前ら何してんだよっ」
右と左に視線を移せば平助と原田が首だけを覗かせている。
「そりゃこっちの台詞だって新八っつぁん。それに左之さんまで……」
呆れ気味に左の永倉、右の原田を見る。
平助も彼らの存在に気づいていなかったらしい。
「ってか、新八、オレのってどういうことだよ」
永倉から見れば左、逆に原田から見れば右側にいる友・永倉に対し、これでもかってなくらい嫌悪感丸出しは原田。
彼も二人の覗き魔がいたなんて思ってもいなかった。
「べ、別にいいじゃねーか、願望を口にしたって」
「そりゃ構わねぇが、お前と千鶴だけは……ねぇな」
「ないない!ありえねーって!」原田の言葉に平助が思いっきり首を縦に振る。
「なっ! てっ、てめぇら! 恋愛ルートすら存在しないこのオレを、もう少し労わったらどうなんだよ! 親友じゃねぇのかよっ!」
永倉の、悲痛な心の叫びだった。(後に攻略キャラに加えられたとのこと。本当におめでとうございます、永倉さん!!)
だが、そんな彼の感情にはお構いなしのこの男――原田が「新八……」と呼びかける。
「なんだよ、慰めならいらねぇよ!」
「悪いが、オレは友情よりも愛情……だな」
「は、はははは……あのルートに原田アリ、ってことかよ……」
「新八っつぁん、どんまい……」
原田のバックに、咲き誇る大輪の薔薇が見えたのは言うまでもない。


「どこに行くの?一くん」
「厠だ」

場所は打って変わって総司と斎藤の部屋の前。
その部屋の主二人の間には、先ほどから不穏な空気が流れている。

「……おかしいな。そっちは千鶴ちゃんの部屋じゃない」
「いや、気のせいだ」
部屋を出たところで、斎藤は、背後から突然現れた総司に足止めを食らってしまう。
「気のせいじゃないでしょ、僕だって厠の場所くらいわかるよ」
その一言に斎藤は口を噤んだ。
総司の言うように、厠は進行方向とは逆の位置にあった。
だが厠に行くと言った手前、どうにかこうにかうまいこと言って、はぐらかさねばならない……斎藤は考える。そして閃いた。
「最近……その……近くてな。それ故、訓練しているのだ」
「訓練?」
「尿意を催しても、まずは我慢する訓練だ。戦闘中など、如何なる場合においても対処できるようにな」
目の色ひとつ変えず淡々と告げる斎藤。
「そういうわけで遠回りしつつも厠を目指す、という訓練中故、失礼する」
「っと……百歩譲って一くんが近いのはわかったから、ちょっと待ってよ」
横切ろうとする斎藤の首巻を持ち、沖田がさらに待ったをかける。
「そこを退け、訓練の邪魔だ……」
「逆に訓練になっていいんじゃない?それに、一くんの膀胱はそんなにヤワじゃないでしょ?」
「何故そんなことがわかる?あんたが俺の膀胱の何を知っている?」
「そんな気がするだけだよ。ま、そんなことはどうでもいいんだけど一くん?その懐に大事そうに抱えているものは何?」
言って沖田は斎藤の懐を覗き込む。
その一言と動作に斎藤は目を見張り、明らかに動揺の色を見せ始める。
「こ、これは頻尿に利くと蘭方医の松本先生から譲り受けたものだ」
「ちょうど良かった!僕も最近頻尿で困ってたんだよね、何が利くのかな?教えてよ」
「断る!」
斎藤は特技の抜刀術を行う際同様、素早い動きで障害物を回避した――
ような気がしたが
「……!……ぐっ……手、手をはな……せ……そ……じ」
そう易々とは沖田問屋は卸してくれなかった。
自身の、首巻という名の手綱は、同室の友の手によって緩みのないようにしっかりと締められている。
「は・じ・めくん……?」斎藤の後ろで沖田が黒い笑みを溢して言った。「それ……かすていらでしょ?」


「よしっ、完了っと」
ぱんぱんっと手を鳴らし、満足げに頷いたのは千鶴の、よき姉のような存在――千姫だった。
隣には忍び装束に身を固めた君菊の姿もある。

「しかし本当にこんなもので効果があるのか、甚だ疑問ではありますが……」
そう言って君菊は手にしている小瓶にそっと目をやった。中には真っ赤な液体が入っている。
「まぁそれを言われると……ね、だけどアイツはきっとここに現れ――」
千姫がそう口を開いた時だった。
「雪村くん!」の声とともに、突然、目の前の障子が勢いよく開かれたのだ。
普段、動じることのあまりない千姫も、そして君菊もこれにはびっくりしたらしい。呆然とその場に立ち尽くしている。
さて、部屋の主を呼んだその大男の正体や如何に?なのだが「攻略キャラに加えてほしい人ランキング」などがあれば恐らく常に最下位辺りをうろついているのではないかと思しき、監察方の島田魁だった。
明らかに困惑している島田。
無理もない……
とある事情から、半ば軟禁状態で新選組に匿われている女の子――幹部でもその理由を知る者は数えるほどしかいない。そんな、大いにワケアリな彼女が不在にも関わらず見ず知らずの人間が彼女の部屋の中に突っ立っているのである。しかもうち一人は不気味な赤い液体を手にし、忍び装束といういでたち……これを不審者と判断してしまうのも当然であろう。千鶴を襲う鬼の可能性だってもちろんある。
「あ、あなた方は雪村くんのお知り合いです、か……」言って島田はそっと刀に手をかけた。
だが、千姫は特に表情も変えることなく、彼の問いに「えぇ、そうだけど……」とあっさり返答。
そして、かすかな声で付き人の名を呼ぶと同時に密かな目配せ。
それに呼応するかのように、君菊は軽く頷くと「申し訳ありません」と目の前の大男に謝罪。
その直後、島田は、ドサ……と大きな音を立て、沈んだ。
それはあっという間の出来事だった。

何が起こったの?という読者のために一応解説しておくが、あの時、島田の鳩尾に、君菊の拳がクリティカルヒットしたのだ。
見られちゃったよ、どうしよう→イロイロ面倒くさいし、手っ取り早く意識を奪っちゃおう→その人が倒れてる隙に、事を進めよう
っていう、お馴染みのアレです。上の説明文だとなんか犯罪のニオイがプンプンしますけど。
んでそのパターン通りに島田が意識を飛ばしてる間に千姫たちはその場から退散したのでありました。


「かすていらをさ、想い人に食べさせるとその恋は成就するって話、なんでもそれ、百発百中の成功率なんだって!」
「え、それ、ホントかよ!じゃ俺も今度……」

千鶴と山崎が湯殿の清掃を終えて戻る途中のことだった。
屯所の警護にあたっている平隊士が、そんなことを話していた。

「あ……だからお千ちゃんは……」
山崎の後ろを歩いていた千鶴は立ち止まり、昨日の出来事を思い出す。

好きな人がいるのなら、これを食べさせるといい、の言葉と共に千鶴はかすていらを手渡された。
あの時、なぜ”かすていら”なんだろう?とひどく疑問に思ったが、あまり話す時間もなく、理由はわからないままだった。
だが、今耳にした言葉で千鶴は合点がいった。

「どうした雪村くん?」
「あ、いえ、何でもないです……!」慌てて山崎の背を追う千鶴。
そんな彼女の姿を山崎は愛しそうに見つめている。

「君も……その……さっきの噂を信じるのだろうか?」山崎は隣に立った想い人にそっと尋ねた。
「……え?」
思いもよらない相手から、そしてその質問の内容に、千鶴は目をぱちくりさせ、彼の顔を見上げる。
そして少し考えてから
「やっぱり、自分の力で振り向かせることが大切だと思います……!」笑顔でそう答えた。
「それも、そうか……」
山崎は、赤くなった顔を千鶴に悟られないよう、空を仰いだ。見上げたお天道様の光りは、彼女の様に眩しくて……。
隣を歩く千鶴には気づかれないよう、こっそり”かすていら”を捨てたのであった――


で。こちらは総司・斎藤組。
未だ私室の前で行われる二人だけの綱引き大会は続いていた。

「そ……じ……!は、はな……せ……」
「離すもんっか……君は、土方さんに食べさせたらいいじゃない」
「そ……なこと、を……し……だ……がよろこ……ぶ……!」
「一部の、まぁ……マニアとか」
「ま……にあ……?」
「あぁ、ごめん。そこは気にしなくていいから」
「お、おれは、この……し……せぐ……みのた……めに……も……ち、づるに……たべさ……ね……ば」
「もう”……”のオンパレードで、何言ってるのかわからないよ。顔もだいぶ真っ赤だし、そろそろ諦めなよ。で、それ、僕に譲ってよ。僕が千鶴ちゃんに食べさせるから」
「だ……じて……そ……はで……きな……」
「全く、往生際が悪いなぁ」
頑なな斎藤に、総司はやれやれと肩をすくめる。
とそこへ――
ドンドンドンっと荒々しい足音と共に二人の視界に入ってきたのは、鬼の副長こと土方歳三だった。
その後を大慌てで追いかけるのが、先ほど畳に沈まされた島田だった。
「副長!先ほど不審な女性二名が屯所内に侵入し……」
「うるせぇっ!んなこと今はどうだっていいんだよ!」
「……え?い、いや、しかしっ……!」
「しつけぇんだよっ!」の一喝。そして鳩尾への一発。
先刻同様、島田は板張り廊下に沈んでいった、「理不尽すぎませんか……」の一言を残して。
「うわ……何あれ……」
「ふ、く、ちょ……が……し……じられ、ん……」
総司も、そして土方を崇拝する斎藤までもが、今しがた、目の前で起きた副長の行動に目を見張っていた。
当の本人はそんな二人には目もくれず、ただ前だけを一点に見つめ、彼らの横を通り過ぎようとした、のだが――
「ちょっと待ってくださいよ、土方さん?」の声と、着物の袖を掴む総司の手によってそれは阻止された。
「あ?」
振り返ると不気味に笑う総司と、真っ赤な顔をした斎藤が、さも何か言いたげな視線をこちらに向けている。
が、当然のことながら斎藤は少し前から絞殺されかかっているような状況なこともあり、ただ土方を見るにとどまっているが。
「おめぇらか、なんの用だ?」
「土方さんに用はないですけど……どうしてそんなに焦ってるのかが知りたくて」
「てめぇにゃ、関係ねぇだろうが!」
ピシャリと土方は言い放つ。
それに対し、総司は苛立つ彼の感情を逆撫でするかのように「人……捜しでしょ?」とひどく落ち着いた口調で訊ねた。
そしてさらに続ける。「土方さん、千鶴ちゃんを探してるんじゃないですか?」
「………!」
土方の目の色が変わる。図星らしい。総司はそれを見過ごさなかった。土方の着物を掴む左手に、さらに力を込める。
それに応戦するかのように土方も負けじと腕を振った。が、はずれない。それどころか、総司から逃れようと無理矢理袖を引っ張るとミシミシと嫌な音さえ聞こえてくる。
「いつも座り仕事の土方さんと実動部隊の僕……どうあがいても、力の差って出てくると思うんですよね」
「ふん、そうかよっ!」
言って土方はそのまま前進した。総司に、そして斎藤を引き連れて。
要は真っ先に千鶴を見つけ、副長命令だなんだと言って、隠し持つ、この”かすていら”を彼女の口に詰め込めばいい。
幸い、利き手の右手は自由の身。
一番危険な総司は両手を使用中。斎藤はどうとでもなる……
いける……!そう思った時だった。
「ひ、土方さんに、総司に、一くんまで……な、なにやってんの?」
声の主は平助だった。三人がいるところから少し離れたところで、”かすていら”を持って呆然と立ち尽くしている。
「おい、平助、ちょっとこっちへ来い」と、彼に一番近い土方がまず声をかけた。空いている右手でひょいひょいと手招きしながら。
「土方さんって案外卑怯者なんですね。僕、がっかりだなぁ……。あ、平助、わかってるよね、土方さんの言うことなんて聞いたら……ねぇ?」
「た……す、け……へ……す……」
土方に続いて、総司、斎藤が順に口を開く。
「……え、えーっと……」
平助はどうしたものかと頭を悩ませる。
この状況下で一番につくべき相手はきっと副長である土方であろう――今後の新選組における自身の地位諸々を考えてもそれがいい。
そろりそろりと、平助はその心の中での決定事項に従った。が、ある物を目にして彼は歩みを止める。”かすていら”だった。
「嫌ってほど酒をご馳走してやる!だから総司をどうにかしろっ!」
普段は見ることのできない、あられもない土方の姿。
「こんな人が副長だなんて、先が思いやられるよね」
「ふ……く……ちょ……わ……るく……い……ぅな……」
うんざりといった感じの総司に対し、意識が朦朧とする中でも斎藤は、土方を崇めることにぬかりはない。
だが途切れ途切れに発せられる彼の言葉は、目の前にいる総司の耳にしか届いていなかった。
残念ながら土方は彼の言葉を気持ちいいくらいにスルーしている。
「てめぇは一番隊の隊長だろうが!っくそ!いいかげん、その手ぇ離せってんだよ!」
「嫌ですよ。土千話なんて僕、読みたくないですから。あ、斎千もね」
淡々と告げ、何の恨みか総司は両の手にさらに力を込める。
「……ぐっ……ぁ!」
斎藤はもろにその影響を受けている。
「てめぇの言ってることはわけわかんねぇんだよっ!!」
土方の着物も同様だった。

醜い幹部同士の争い。
平助は見るに耐えない……という思いからではなく、ここで、この三人が足の引っ張り合いをしてくれれば自分が、千鶴との恋を成就できる可能性が高くなることを考えつく。
そして「ごめんっ!」
そう言って走り出した、が――

「いっ、イテテテテテっ!」

後頭部に突如として走るズキズキとした鈍い痛み。
彼のトレードマークともいうべきポニーテールを誰かに掴まれたのだ。
こうなるともう前に進むことは難しい。
平助は犯人と思しき人物の名を挙げ振り向いた「何すんだよっ、総司!」と。

お気づきかとは思うが、総司は両手が塞がっているため下手人ではない。

「あ、れ……?」
振り返った平助の目に映ったのは、黒い着物の袖から伸びる白い手だった。
斎藤だった。
「なにすんだよ、一く……え?」
「のうまくさんまんだばざらだんせんだ……」
目を閉じ、何やら呪文のようなものを唱え始める斎藤。
そして彼の全身を赤い炎が包んでいく……わけないが、彼の顔は確かに不動明王そのものだった。
「な、なんでさっきまで何言ってかわかんなかったくらいなのに、今はスラスラ話せてんだよ!どーいう仕組みなんだよ!」
平助の言うとおりだった。
が、そこら辺はギャグ話ってこともあるので、あまり気にしないことをオススメしたい。

斎藤がカッと目を見開き、
「お前の思い通りにはさせん!」そう言い放った時だった。
「斎藤!」
声をかけたのは土方だった。
「……なんでしょうか、副長?」
目を凝らす平助が見たのは普段と変わらない、斎藤の顔だった。
「お前なら……やってくれると信じていた……」
「はっ、もったいなきお言葉……」
「ちょっ……マジ、かよ」
「マジ、みたいだね……」
平助と総司が同時に眉を顰めた。土方と斎藤の共同戦線に対して。
そんな中、今一番に会いたい、雪村千鶴の名を呼ぶ男の声が四人の耳に届く。
原田と永倉だった。
「くそっ、巡察に出てる間に誰かが食べさせたんじゃねーだろーな!」
「落ち着けって、新八。考えてみろ、そんな汚いマネするようなヤツらに見えるか?」
この言葉がグサリグサリと四名の男の良心に突き刺さったことを祈りたい。
ってか、千鶴の部屋を覗き見てたとき、アンタらしっかり”かすていら”持ってたよねってツッコミたいところではあるが……
「皆の姿が見えねぇのが気になる……って、あーーー!」
「大声出すなよ……って、なっ!」
角を曲がった所で二人の目に飛び込んで来たのは、明らかに二人を出し抜いて、千鶴に”かすていら”を食べさせようと画策、いや、すでに実行しようとしている四人の仲間の姿だった。
「お、お前ら!って、平助っ! お前、俺たちが巡察から戻ってくるまで待ってる!正々堂々と勝負するって言ってただろーが!」
「新八っつぁん、ちょ、ちょい待ち!俺はただ、千鶴を迎えに行っただけで……」
「あれぇ?平助はしっかり、ちゃっかり、”かすていら”持ってたよね?」
「ちょ、総司!」
「あぁ、間違いなく平助は”かすていら”を持っていた。しかも俺たちが争っているのをいいことに真っ先に、千鶴の下に走ろうとしていた。俺は確かにこの目で見た」
「は、一くんまで……」
「そぅか……平助、いい度胸じゃねぇか。そういうヤツは嫌いじゃないが……」
ポキリポキリと指を鳴らす原田。ゆっくりと、確実に平助に近づいていく。
「さ、左之さん!話し合おう! は、話せばわかるからっ!!」
「平助……俺がなんで赤い手甲巻いてるかわかるか?」
「いっ、いやっ!わかりたくもないですッ!」
平助が叫ぶ。
原田が拳を振り上げる。
それが振り下ろされる瞬間だった。
「おや……皆さん、何をしているのです?」
穏やかな口調とともに現れたのは山南敬助だった。彼は丸眼鏡をくいっと押し上げて続ける。
「新選組幹部ともあろう者が、仲間相手に暴行を働くのはあまり感心できませんね……」
「……山南さん! たすか……」感激する平助だったが
「山南さん、悪いがこれはオレたちの問題だ……だから、オレたちでケジメをつけねえといけねえ……」
原田が平助の言葉を遮る。
「そう、ですか……」
キラと山南のガラスレンズが光った。
それと同時に、俯いた彼の口元が微かに綻んだのを土方は見過ごさなかった。
そして彼の胸元に”かすていら”が隠されていることも。
「原田、永倉、山南さんを捕まえろ!」
土方の言葉に永倉が首をかしげる。
「とっととしやがれ! 山南さんも千鶴に”かすていら”食わすつもりだ!」
「んだとっ!」
ようやく納得した永倉がダッと走り出す。原田もそれに続く。
そして、二人が、先ほど衝撃の事実を目の当たりにしたあの角に差し掛かった時、永倉が山南の肩を掴んだ。
「山南さん、ちょっと待ってくれねぇか」
「なんの真似ですか、永倉くん?」
振り向いた山南の表情は微かに動揺しているようでもあった。
「その、胸元に隠したそれ、見せてもらおうか」
「これに……気づきましたか……」
そう言ってチラと二人の背後、少し離れたところの小集団の先頭に位置している土方に目をやった。
「彼の、土方くんの入れ知恵、と言ったところでしょうか……」山南がいつもの口調でやんわり言う。
「ま、そういうこった……わりぃな、山南さん」
「さて、どうしたものでしょう……」
ふぅ、と長いため息をつく山南。それから少しの沈黙の後、永倉の目を見つめポツリと溢した。「実は……この眼鏡、火薬が仕込まれてましてね」と。
「は?」
「永倉くんもご存知でしょう?池田屋事件の折、枡屋喜衛門邸にて大量に発見された、火薬。実はあれを少量、拝借しましてね……」
「な、なんだって!」
「か、火薬って……山南さん、正気か……」
慌てふためく永倉に、絶句する原田。
「おいっ!どうした!」ただ事ではない二人の様子にすぐさま副長・土方の声が飛んだ。
「ば、ば、ば、ば、爆発するって!」
「はぁ?」
「だ、だからこの屯所を爆発させるって山南さんが言ってんだよ!」
まともに話せない永倉に代わって原田が叫ぶ。
「なんだとっ!」
「山南さん、そんなに千鶴ちゃんのこと好きだったんだ。僕知らなかったなぁ」
「あぁ……。人知れず忍ぶ恋、といったところか……」
「ちょ、総司に一くんまで、何呑気なこと言ってんだよ!」
「くそっ! とりあえず避難しろ! どこか安全なところを探せっ! おいっ、総司、早く袖、離せってんだよ!」
「えー、皆を避難させた後、こっそり千鶴ちゃんの所に走ったりしないでしょうね」
「するかよっ!」
「……そこまで言うなら仕方ないですね」
大きなため息をついた直後、総司が手を離すかと思いきや……

ビリッ!

「……なっ!」
哀れにも土方の着物の袖は彼の手により、裂かれてしまった。
「な、なんの真似だ、総司っ!」
「なにって、誓いみたいなものですよ」
「なんの誓いだよっ!」
「なんのって、千鶴ちゃんの所に走ったりしませんってやつですよ」
「………。」
「うわ……土方さん、肌、白……」
「なんか言ったか平助?」
「い、いや土方さん程の色男だとそんな姿も様になるなぁ……なんて……」
「僕もそう思いますよ」しれっと答える総司。
「はは、そりゃどうも……」
嫁さんにえらい目にあわされた亭主のように惨めなこの姿――これのどこが様になっているというのか。
それが様になる人がいれば、一度でいいからこの目で拝んでみたいものだな……土方は冷静にそんなことを思った。
が、今はそんな悠長なことを考えている暇はない。
「早く逃げねぇと!」
原田の声を合図に皆が一斉に走り出した。
とりあえず危険物取り扱い中の山南から、少し離れたところで皆がかたまり、様子を伺う。
床に突っ伏していた島田の体も申し訳ないので土方が引っ張った。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ……」と、当の山南は柔らかく笑って”かすていら”集団に呼びかけている。
「お、おい、火薬はどこに仕込まれてるって?」眉を寄せ、土方がひそひそ声で永倉に尋ねる。
彼の様子は、どう見ても心中を覚悟したような人間のものではない。
「眼鏡がどうとか言ってたよな、左之?」
「あぁ、そんなこと言ってたな」
「眼鏡って、あの……?」
山南の手元で揺れる火薬入りであろう眼鏡を指差して総司が続ける。「あれのどこに仕込めるのかなぁ……」
「あぁ、俺もそれを不思議に思っていたところだ。詰めると言っても硝子を支える周りの枠くらいだろう?あんな微量で屯所が爆破できるものなのか」
「うーん、この屯所を吹っ飛ばすって、かなりの量がいるんじゃねーの?」
平助の言葉を最後に皆が眼鏡爆弾について考えている最中だった。
突然、庭先へ山南が眼鏡をほおり投げた。
「お、おいっ!山南さんっ!」
土方がとび出すと同時に「ドーン」っと音がした。が、それはかなり小さくて控えめな音だった。
「……へ?」
「花火、ですよ……」
「は、花火?」
まだ明るいため、空に上がった大輪の花は誰の目に映ることはない。
だが、山南にはそれが見えているかのように一人空を見つめ、思い出話を語り始める。
「昔のこ――」
「人騒がせだろうがぁ!」の怒声とともに、山南の右頬に土方の鉄拳炸裂。
山南の思い出話がどんなものだったのか、それをついに誰も知ることはなかった。まぁ、別に知りたくもなかったし。


「しっかし、山南さんがあんな大ボケかました時はどうしようかと思ったぜ」
先頭を歩く平助が言う。それに続くのは斎藤だった。
「あぁ、さすが土方副長、キレのあるつっこみだった」彼はここでも土方を敬う心を忘れない。
「つーか、もうそろそろ読者も飽きてきてる頃じゃねーか?」
ちゃっかりポイントを稼いでいるのは攻略対象キャラクターに加えてほしい永倉新八。
それはストーリーの展開上すごく難しいと思うけどね。
「僕もそれ、心配していたんだよね」永倉の後ろを歩く総司が言う。
「おい、てめーら!これ以上、この、はく何たらってヤツの世界観壊すんじゃねぇぞ!」
島田を引きずりながら怒鳴るのは土方副長だった。
「いや、土方さんもそれに十分貢献してたと思うぜ……」と冷静な原田の一声。
そんな和やかムードの中、このご一行様がやってきたのは千鶴の部屋だった。
「千鶴、居るかー?」
皆を代表してかどうかはわからないが、平助がまず声をかけた。が、反応はない。
とそこへ、ちょうど清掃を終えた千鶴と山崎が姿を現す。
「皆さん、どうしたんですか!?」
幹部一同が自室の前に勢ぞろい、というこの状況。千鶴は何かあったのではないかと顔を曇らせた。
それは山崎も同じだった。
「雪村くんの身に何かき――」彼は言いかけて、言葉を失った。
ずらっと立ち並んだ、幹部隊士の手元には”かすていら”。中には力を入れ過ぎたためか、変形したものもある。
皆、千鶴に食べさせに来たに違いない、そう山崎は瞬時に判断した。
そうはさせるか……!
心の奥で強く決心したその時だった。
「はーはっはっは!」耳障りな高笑い。
山崎が「しまった!」と思った時には遅かった。彼は突如現れた、背後の人物に一瞬にして羽交い絞めにされてしまう。そして首に腕を回され、山崎は苦しそうにうめき声を漏らす。
「山崎さん!」
「山崎!」
方々から彼の名を呼ぶ声が上がる中、山崎の自由を奪った男が口を開いた。
「久しぶりだな……我が妻よ」
赤い瞳を細め、口角を微かに上げて笑うこの男――千鶴を妻と呼ぶ、皆さんお馴染みの風間千景だった。
隣には天霧の姿もある。
「今日は貴様に頼みがあって来たのだが……?」首をゆるりと傾け、風間が言う。
「た、のみ……?」
そう繰り返してから、千鶴は視線を床へと落とした。それから数秒ののち、何かを決心したかのように顔を上げ、風間に告げる。
「わかりました……何でも言うことを聞きます。その代わり、山崎さんを放してください」
「……ん、山崎だと?この間抜けな犬のことか?」
「雪村くん、俺に構うな!早く逃げるんだ!」風間の言葉にかぶさるように山崎が声を張り上げる。
「千鶴!」と彼女の背後からも一斉に声が上がった。
「犬どもは黙っていろ!まぁ、いいだろう……俺の言うことを聞けば、こいつの命までは取るまい」
「雪村くん!」千鶴を見、再び山崎が叫ぶ。が、彼女はただ心配しないでほしい、と彼に向かって健気に微笑むだけだった。
そしてすぐに風間へと視線を戻す。
「頼み、とはなんですか」
「フン、貴様も……よもや知らぬことはあるまい?かすていらの、あの噂を……」
「くそっ!やっぱそれかよ!」平助が真っ先に言って唇を噛んだ。
「今回、鬼さんはいつ登場するかと思ってたけど、まさか、こう来るとはね……」総司が続く。
「吼えることしか知らぬ幕府の犬どもめが……!」幹部隊士を卑しむように見つめ、風間は続ける。「躾もろくにされておらぬわ……」
「っんだと!」永倉だった。「新八……」言って、そっと視線を送るのは斎藤だった。だが、普段、あまり感情を表に出すことのない彼も今回ばかりは違っていた。その表情は明らかに怒りに満ちていて、彼の利き手である左手は原田によって押さえつけられている。それを見、永倉がボソリと「斎藤……」と、彼の名を口にする。「もう、面倒くさいから斬っちゃおうよ」沖田だった。「山崎くんは名誉の死……とかでいいんじゃない?」
「それでもこちらは一向に構わぬがな……」風間は鼻で笑っている。
「土方副長、沖田くんの言うとおりです!俺のことは捨て置いてください!早く、雪村くんを安全な場、ぐあっ……!」
「山崎さん!」
風間の指が山崎の喉元に、ギリギリと食い込んでいく。それを目にし、千鶴は青ざめ、言葉を失う。
そんな中、不意に自分の名を呼ばれ、千鶴は声のした方を振り返った。
彼女が、声を発した人物を特定するより先に、「……かすていら、持ってこい」と、低くもよく通る声音で命令が下される。
声の主は鬼の副長こと、片袖のない着物を召した土方歳三だった。
彼のその言葉に、千鶴の表情は一瞬にして強張った。それは土方の周りに立つ幹部隊士も同様だった。
「……土方さん、ふざけるのはよしてくださいよ」総司は苦虫を噛み潰したような顔を土方に向け、肩を震わせている。
が、そんな総司に視線をくべることなく土方は続ける。「アイツを――山崎を、死なせたくねぇんだろ」
その一言で千鶴は覚悟を決めたのか、真一文字に口を結びこくりと頷くと、さっさと自分の部屋へと消えてしまう。
そして千姫から貰った”かすていら”を戸棚から取り出すと、それを手に風間の前へと歩み寄った。
「ふん、待ちくたびれたぞ……」千鶴と”かすていら”を見、風間はニヤリと笑う。「……しかし、女子が想い人に”かすていら”を食べさせると、女子は子を生すとは……不思議なこともあるものだ……」

……は?
子を、生す……?

西の鬼の頭首・風間の発した言葉に、千鶴も、そして新選組幹部隊士一同の目が点になっていた。
明らかに”かすていら”さくせすすとーりーは、金髪赤眼鬼の都合のいいように歪曲されている。
「……な、なぁ、そんな話しだっけ、新八っつぁん?」
「い、いや、想い人と恋愛成就するまでじゃなかったか……なぁ、斎藤?」
「あぁ、俺はそう耳にしているが……」
ヒソヒソと、風間の耳に届くか届かないかくらいの微妙なボリュームで隣組会議がスタート。
口火を切ったのは平助だった。そして永倉、斎藤がそれに続く。
「子を生すって、やることやんなきゃできねーだろ?」
アンタがそれを言うか!ってなツッコミは、某ルートをプレイされた方なら誰もが言いたくなるはず――の原田が口にする。
「アイツの頭ん中は、それしかねぇんじゃねぇか」と、冷めた目をして言うのは土方だった。
「鬼さん、相当、頭の中腐ってるみたいだね」これは総司。
そして、ちょっと電波な風間の隣に待機している天霧は、笑いを噛み殺し中につき、西の鬼の頭首を見ようとはしない。
目線は明らかに左斜め下を向いている。
「なぁ、天霧ってヤツもさ、あれ、明らかに間違ってるって知ってるよな」
「あぁ、そうだろうな……」
平助と斎藤が顔を見合わせ、そうこぼしたところで会議終了。ってか会議じゃなくてただのぼやきは終了。
では、風間と千鶴の元へとカメラを切り替えよう。

多少の、千鶴のフリーズはあったものの、そんなこととは露知らずの風間は”かすていら”が口に運ばれてくるのを、今や遅しと待っていた。
そして覚悟を決めた千鶴。震える指で、”かすていら”を掴むと風間の口元へと持っていく。が、「待て」と風間がそれを押し止めた。
「”あーん”はどうした、”あーん”は?」
皆に衝撃が走った。
“かすていら”を食べさせてもらうだけにとどまらず、男なら誰しも一度は夢見る大好きなあの子からの「あーん」でパクリ、だと……?
「土方さん、アイツ殺しちゃって構わないですよね?」と、瞳孔開いたまんまの総司。
「あぁ、山崎も今ここで死ぬなら本望だろう……」青筋浮き立つ土方がそれに答える。
他の幹部隊士集団も一気に殺気立ち、戦闘モードへ突入しようと腰に手を伸ばしたその時だった。
「あーん」という千鶴の声。
「一歩遅かった!」と嘆く男たちの目に飛び込んできたもの――それは、もしゃもしゃと口を動かしている風間、ではなく山崎の姿だった。
「や、山崎……さん?」
「山崎、お前!」
唖然とする千鶴に、驚愕する彼の同志たち。そして当の風間も彼らと同じリアクション。
そう、風間の口に”かすていら”が投入されようとするまさにその瞬間。山崎は素早い動きで風間の前に頭を持っていき、身をもって、千鶴の”かすていら”が、風間の口へ渡るのを阻止したのであった。優秀な忍びだからこそなせる業といえよう。
そして、頬をぱんぱんに膨らませた山崎は「ゆひふはふん……(訳:雪村くん……)」と千鶴に呼びかける。
「ひふはへひ、ひひのはふへいらほはへふほほはへひ、ほえはひあわへも……がはぁっ!」
(訳:死ぬ前に君の”かすていら”を食べることができ、俺は幸せ者……がはぁっ!)
言い終わらないうちに、山崎は血のような赤い液体を吐きながら、ばたりと倒れこんだ。大好きな、千鶴の目の前で。
「なっ、なんだと……!?」
狐につままれたような顔で、風間は自身の足元に横たわった人質を見つめている。
「山崎さん、なんて言ってたんだろう……」
彼の、死に際の言葉は全く理解できなかったが、千鶴の頬を涙が伝った。
その後ろでは血相を変え、土方が叫ぶ。「てめぇ、よくも山崎を……!」
「……オレは、何もしてはおらぬ」なぜか困惑気味の西の鬼・風間。
「何もせずに山崎が死ぬわきゃねぇだろうが!」
「な、なぁ、土方さん、さっきここで死んだら本望とか言ってなかったけ……」平助に目配せし、永倉が呟く。
「うん、言ってたよね」と答えるのは総司だった。そしてさらに声のボリュームを上げて続ける。「土方さん、さっき山崎くんなんて死ねばいいとか言ってたじゃないですか。僕の聞き間違いかなぁ……。ホント、鬼の副長って言われるだけのことはありますよね」
「え……?」涙を流す千鶴が、一瞬、土方を振り返る。
「ち、違う! そうは言ってねぇだろうが!」
「貴様……、我が妻の”かすていら”に毒を仕込み、それをオレに食べさせようと企んでいたとは……。姑息なマネを……」
「いや、お前人質とってたじゃん」風間様のご発言に平助がすかさずつっこむ。
「えぇぃっ!そこの駄犬は黙っていろ!言っておくが――」足元に転がる山崎に視線をやり、ちょっと気まずげに風間は続ける。「オレはコレに手は下しておらぬ。”かすていら”を食べたコイツが勝手に死んだのだ。となると……毒以外考えられぬだろうが」
「そ、そんな……」
風間の言葉に千鶴はひどく狼狽する。
あのお千ちゃんが毒を仕込む、なんてまず考えられない。だとすると、誰が、なんのために……
その時だった。
風間の後方で、土方に連れてこられながらも、ただ横たわっているだけ、しかも千鶴の部屋の前に来る途中に捨て置かれるという散々な出番の島田がむくりと目を覚ました。
そして足袋を穿いた足を見、それを土方と勘違いした彼は、風間の両足首を両手で掴むと、そのまま自分の方へ思いっきり引いたのであった。涙混じりに「あんまりです、副長!」と叫びながら。
これには風間も突然のことで対処ができず、つんのめり、顔面から廊下に突っ込むことに。彼と、床板との接触面からは白煙が上がっている。
皆が呆気に取られ、島田の爆発シーンを見送った直後、「よぉ」と天井をぶち抜いて現れたのは不知火であった。なぜか、彼の着地点は横になったままの島田の頭上ということもあり、島田山の噴火は即座に沈静化。
「なんか面白ぇことやってるって聞いて来たんだが……ん? 風間、もう伸びちまってんじゃねぇか……っと!わりぃ、わりぃ」
踏んづけていた島田に詫びながら「へぇ、こいつらが風間をやったのか?」と島田、山崎の二人に感心の眼差しを向けている。
風間を含む横たわる三名。その状況から判断して、彼は、風間の側に倒れているこの二人が相討ちしたものと思い込んだらしい。
事実は大分違っているのだが……
「さて、鬼さんがもう一匹増えちゃったけど……」出方を伺っていた総司がおもむろに口を開く。
「やっぱ年少のオレからでいーよな?」魁先生の名は伊達じゃない平助が続く。
新選組側の、臨戦態勢の色が濃くなった矢先――
対する不知火は「じゃ、メンドーかけたわ」と、風間の体を担ぎ上げ、立ち去ろうとしていた。
「は?ちょ、ちょい待ち!お前ら一戦交えていかねーのかよ!」ずるりと肩を落とした平助の声が飛ぶ。
「……泣いてる女見てたら、そーいう気おこんなくてよ」千鶴の頭をそっと撫で、不知火が言う。
天霧は山崎の元に駆け寄って屈みこむと、首筋にそっと手を当て、「大丈夫、脈はある。ただ気を失っているだけです」と、千鶴を元気づけるように囁くのであった。
「な、なんかわかんねーけど、あいつらかっこよくね?」平助が口を尖らせ、ぼそりと呟く。
そして、皆がぽかーんと彼らを見送る最中、不知火が振り返って言った。
「しかし、その南蛮菓子、すげぇ人気らしぃな?」
そう言葉を投げられ、新選組の面々は手元の”かすていら”を見、一瞬気まずそうに目を逸らす。
その光景を鼻で笑って不知火は続ける。
「妙な噂も出回ってるみてぇだが、ありゃ菓子屋の流したデマらしいぜ。いかにこの高級菓子を販売するかって……。ま、恋愛成就なんて謳えば、それに群がる人間はぜってぇ出てくるって踏んだんだろ。で、お前らは生粋の甘い物好きかなんかか?」
皆して”かすていら”なんて持ってよ、と大笑いして去っていく不知火。そして天霧。
そんな彼らの姿が見えなくなったところで土方が下知を下す。
「一番隊、二番隊、三番隊、八番隊、十番隊、ただちに出動!目標、”かすていら”を扱う菓子屋全店!」


「え?”かすていら”の噂って、あれ、デマだったの!?」
飲み込んだお茶を噴出さんばかりに驚いているのは千姫だった。
「うん……なんかね、お店の人がたくさん売りたいがために流した宣伝文句だったみたい……」

あの”かすていら”事件から数日経ったのち、町でばったりと出くわした千鶴と千姫はお団子屋さんでお茶を啜っていた。

「……あ!ねぇ、アイツ来たでしょ?風間。ふふん、あの唐辛子の液体は効果あったでしょ」
左手にみたらし団子を持ち、得意顔で千姫が言う。
「と、唐辛子?」
「そう。どこから手に入れたかっていうのは(諸々の事情で)秘密なんだけど、唐辛子を凝縮した液体をね、たっぷり含ませておいたの」
「あ。それで山崎さんは……」千姫の説明に納得した千鶴は何度も頷く。
「山崎、さん?」
「……うん、いろいろあってその……彼――山崎さんがそれを口にしちゃってね。数日、のどの調子が悪かったみたい」
「そ、そうだったんだ……。そうとは知らず、ごめんなさい」
「ううん!」しゅんと肩を落とす千姫を安心させるように千鶴は言い放つ。「よくはわかんないんだけどね、山崎さん……。それを口にした時、すっごく嬉しそうだったから」
「う、嬉し、そう……?あの唐辛子たっぷりの”かすていら”を口にして……?」
「うん!きっと、辛いものがとっても好きな人なんだと思うから、大丈夫」問題ないよ、そう言って千鶴は微笑むのだった。

鈍感な千鶴に、山崎の、そして皆の想いは今日も届かない


はい、お疲れさまでしたー!
ものすごく長かったと思うんですけど、全部読んで下さった方はいらっしゃいますでしょうか。
こちら、実はフリー配布用の作品として過去に当サイトにて展示していたものになります。
今回のサイト移転に際して、誤字などがないか今一度確認のため全部読んでみたんですけどいろいろ暴走してましたね、もう本当すみませんって感じでした、改めて読み直すと…。そしてこんなものをフリー配布してたんかい?!と当時の自分の怖いものなしなところもすごいなぁと思った次第であります。
さて、このお話の中の”かすていら”ですが、現在のあの長崎カステラをイメージして書いています。甘くて美味しいですよね、かすてら……私も大好きです。
が、しかし。
現在のカステラと江戸時代の頃のとは大分違っているそうで、今のはしっとりめですが、江戸時代のものは水あめを使ってないのでパサパサだったらしいです。しかも、みそ汁の具に使われてたとか、栄養価が高いので旅の携帯食だったとか、ワサビや大根おろしで食べていたとか……、今の甘いお菓子、カステラからは想像もつかない食べられ方をしていたそうです。
ただ、砂糖を使っているので甘かったようではありますが……。
そして今はさほど高級品ではありませんが江戸の時代、砂糖と鶏卵という手に入りにくかった高級素材をふんだんに使ったお菓子だったこともあり、庶民にはなかなか手が出せなかったとのこと。
そういう時代背景を踏まえて、書かせてもらいました。

けど千鶴ちゃんが好きだからって無理矢理”かすていら”を食わせて我が物にしようなんてどうかしてますよね。まぁ、それくらい大好きってことで落ち着きましょう、ここは一つ。(そもそも”かすていら”を食べさせたら自分のことを好きになるって設定から終わってる……)それに千鶴ちゃんがその噂話を知らないのであれば、自然に食べさせることも可能なんでしょうが、千鶴ちゃん知ってますし。というわけで、なんかいろいろ無理じゃね?のツッコミは心の中で存分にしていただけますと幸いです。
はちゃめちゃなお話ではございましたが、最後までお読みくださり、本当にありがとうございました!